目次
はじめに
「あなたと話していると、なんだか心地いいの」
そう言ってくださったのは、私の母くらいの年齢の女性でした。
私はそのとき、思わず「えっ、そうですか?」と照れ笑いしてしまいました。
自分では全く意識していなかったからです。
すると彼女は、こう続けました。
「あなたの語尾がね、やわらかくて落ち着くのよ。“〜だねぇ”とか“そうなの〜”って
伸ばす感じが、ホッとするの。」
私は驚きながらも、なんだか心が温かくなりました。
人にそんな風に言われたのは初めてだったからです。
確かに私は、きつい口調や命令口調をほとんど使いません。
相手を責め立てるような言葉は苦手です。
それはきっと、私の中にある「ある想い」からきているのかもしれません。
それは—
人を傷つけたくない。= 自分を傷つけたくない。
という気持ち。
人を怒鳴ったり、言葉で攻撃したりすれば、その瞬間は相手に優位に立てたように思えるかもしれません。
けれど同時に、自分の心もどこか痛んでしまう。
私はそう感じてきました。
だから、自然と語尾もやさしくなっていったのだと思います。
「ぬるい」と言われた私の話し方
一方で、そんな私の話し方を「ぬるい」と表現する人もいました。
「もっとハッキリ言わないと伝わらないよ」
「優しすぎて、逆に舐められるんじゃない?」
そんな言葉を投げかけられたこともあります。
確かに、世の中にはハッキリとした強い口調の方が効果的な場面もあるでしょう。
リーダーシップを取る立場や、危険を伴う現場などでは特にそうです。
でも私は思うのです。
話し方は、その人の“心の音色”。
私がやわらかい語尾で話すのは、ただ相手に気を使っているからではなく、私の心が「そうしたい」と
願っているから。
私にとっては、それが自然で心地よいのです。
怒鳴り声に心が壊れそうになった日々
そんな私にも、かつてどうしても許せない経験がありました。
ある時期、私は信頼していた相手に騙され、深く傷ついたことがあります。
その人は、自分の思い通りにならないと怒りをぶつけてきました。
怒鳴り声を上げて、感情のままに私を責め立ててきたのです。
私は親から大声で怒鳴られたことがなかったため、そんな声を浴びると体が固まり、
心がビクビクと震えてしまいました。
言い返す勇気もなく、ただ耐えるしかありませんでした。
でも、ある日。
私はとうとう心の限界を迎えました。
その人に、こう言ったのです。
「それ、本当にそこまで怒るような内容ですか?それよりも、自分のイライラを私にぶつけないでください。」
そして、勇気を振り絞ってこう続けました。
「あなたが思い通りにしたいなら、怒るんじゃなくて、丁寧に言葉を使わないと、人の心は動かないと思います。」
これは、ただの反発ではありませんでした。
それまで怖くて何も言えず、ただ我慢してきた私が、自分を守るためにようやく絞り出した言葉でした。
怒りの言葉は相手を委縮させるだけ
人は怒りで動かそうとしても、結局は心が離れていきます。
怒鳴り声は相手を委縮させ、動けなくさせてしまうからです。
恐怖で人を縛ることはできても、そこに信頼は生まれません。
一方で、やさしい語尾で話す言葉は、じわっと心に染みていきます。
まるで温かいお茶が冷えた体に沁みわたるように、安心感とともに受け取られるのです。
人は本当はみんな、「安心できる場所」や「信頼できる声」に反応して動きたいのではないでしょうか。
やさしさは「弱さ」ではなく「強さ」
「やさしい言葉は弱い」「やさしい人は利用されやすい」
そんなふうに思われがちですが、私はそうは思いません。
やさしさとは、決して弱さではなく、本当の強さです。
なぜなら、怒鳴るよりも、冷静にやさしい言葉を選ぶ方がよほど難しいからです。
感情のままに怒りをぶつけるのは簡単です。誰にでもできます。
けれど、心が乱れているときに「やさしい語尾」を選び続けるには、自分を律する強さが必要です。
やさしい人は、自分をコントロールする力を持っている人なのです。
日常でできる「やさしい語尾」の工夫
では、私たちが日常生活の中で「やさしい語尾」を意識するにはどうしたらいいでしょうか。
ここで、いくつか簡単にできる工夫を紹介します。
1. 「〜しなさい」ではなく「〜してみようか?」
命令形ではなく提案形にするだけで、相手の受け取り方が大きく変わります。
2. 「〜でしょ?」より「〜だよねぇ」
問い詰めるよりも共感の響きが強まり、相手が安心します。
3. 「でも」ではなく「そうなんだね」
相手の言葉を否定せず、一度受け止めてから話すことで会話が柔らかくなります。
小さな違いのようですが、この積み重ねが人間関係に大きな変化をもたらします。
読者のあなたへ届けたいメッセージ
最後に、こんな言葉を贈ります。
「怒りは一瞬の力、やさしさは永遠の影響力。」
— 作者不詳
怒りでは人の心を動かせません。
けれど、やさしい言葉は、静かに、でも確実に相手の心に届き、癒しや勇気を与えていきます。
どうか今日から少しだけ、自分の語尾を意識してみてください。
「〜だねぇ」「〜そうだね」「〜してみようか」
そんな小さな言葉の響きが、きっと大切な人との関係を変えてくれるはずです。
私もまた、自分を大切にしながら、やさしい言葉を選び続けていきたいと思います。